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金が「金らしく」取引されなくなった理由

by VT Markets
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Sep 3, 2026

金(ゴールド)はこの1週間、多くの市場参加者の想定と違う値動きを続けた。

米国とイランが攻撃の応酬に入り、原油価格は約6週間ぶりの高値圏へ戻った。一般に、地政学リスク(戦争や紛争など政治要因による不確実性)が高まる局面では、投資家が「安全資産(値動きが相対的に安定しやすい資産)」に資金を移すため、金は買われやすい。

ところが、金は下落した。

12月限の金先物(将来の決められた日に、あらかじめ決めた価格で売買する契約)は水曜に1オンス=4,377.20ドルで始まり、NY時間序盤には4,357.50ドル近辺まで下落した。現物金(今すぐ受け渡しできる取引)は3カ月高値の4,697ドル近辺から4,300ドルを下回り、下落率は約9%に達した。

こうした中、金の転機として注目されているのが、金曜発表の8月米非農業部門雇用者数(NFP:農業を除く雇用者数の増減を示す重要指標)だ。見方は分かりやすい。

雇用が弱ければ、FRB(米連邦準備制度理事会)に「高金利を維持する圧力」が和らぐ可能性がある。そうなると米国債利回りが低下し、利息を生まない金には追い風になりやすい。ただし、金利だけが全てではない。金には他にも下押し要因があり、金曜の雇用統計が動かせるのはその一部にとどまる。

雇用情勢が金にとって次の試金石となった理由

FRBは政策金利(短期金利の誘導目標)を2025年12月以降、3.50%〜3.75%に据え置いている。9月16日の会合を前に、市場の焦点は「追加利上げがあるか」に移った。

このため、経済指標の受け止め方が変わっている。

過去2年ほどは、雇用が弱いほど「将来の利下げ期待」が強まり、金にプラスとみられやすかった。だが2026年9月は状況が違う。雇用が強ければ利上げ観測を後押しし、弱ければFRBへの圧力が和らぐ、という構図になっている。

FRB議長のケビン・ウォーシュ氏はジャクソンホール会議での発言でインフレ(物価上昇)重視の姿勢を示し、追加利上げの余地を残した。市場は敏感に反応し、9月利上げの織り込み(市場参加者が想定して価格に反映させる度合い)は約40%から、1週間で66%〜70%へ上昇した。

米10年国債利回り(長期金利の代表指標)も水曜に4.818%まで上昇し、2023年11月以来の高水準となった。金は利息が付かないため、利回りが上がるほど「金を保有する機会費用(他の利回り資産を持てたはずの損得)」が増え、金には逆風になる。

金が9%下げた背景

直近の下落は利上げ観測で説明されがちだが、金はドル高、実質金利、エネルギー価格によるインフレ懸念からも圧力を受けている。

  • 9月利上げの織り込み:66%〜70%程度。金曜の雇用統計が最も直接的に影響しやすい。
  • 実質金利(名目金利から期待インフレ率を差し引いた金利の目安):10年利回りは4.79%近辺で、数年ぶり高水準圏。雇用統計はFRB見通しを通じて利回りに波及しうる。
  • 米ドル:安全志向の資金流入で底堅い。雇用が弱ければドルの上値を抑える可能性がある。
  • 原油主導のインフレ圧力:ホルムズ海峡の混乱で原油は1バレル=90ドル近辺。雇用統計だけでこの要因は変わりにくい。

雇用が弱ければ、9月利上げ観測が後退し、利回りとドルが下がりやすくなる。ただし、原油高によるインフレ懸念そのものは消えない。

原油高はインフレ期待(将来の物価上昇の見通し)を押し上げやすい。インフレ期待が高いとFRBは慎重になりやすく、利回りが高止まりし、金の戻りを抑えやすい。

それでも金が戻す可能性

急落後でも、反発を支える材料はある。

利上げ観測は変わりやすい。 今回の利上げ織り込み上昇は、経済指標というよりFRB高官発言が主因だった。金曜の統計が弱ければ、市場は織り込みを素早く引き下げる可能性がある。

バンガードのシクリング氏は、雇用減少がもう1カ月続く、または失業率が4.3%付近まで上がる場合、9月会合の見通しが大きく見直される可能性を示唆した。

タカ派転換(金融引き締めに前向きな姿勢)の多くは既に価格に反映された可能性。 金は高値から急速に調整した。アナリストの間では、金利見通しの変化の相当部分がすでに織り込まれている、との見方もある。

つまり、金がさらに大きく下げるには、雇用などが想定以上に強いといった追加材料が要りやすい。

中銀買いは下支え。 公式部門(中央銀行など)による買いは、中国の購入を含め、下落局面でも続いている。短期の売り圧力を止めるとは限らないが、長期では支えになりやすい。

また、雇用指標が市場予想を下回る可能性もある。

7月の雇用者数は+8.3万人程度の増加予想に反して2.3万人減となった。過去分も合計10.3万人下方修正された。

8月のADP統計(民間の雇用推計)は民間雇用が3.8万人増と、予想の4.7万人増を下回った。金曜のNFP予想は4.5万〜6.5万人増、失業率は4.1%で横ばいが見込まれている。

反発しても続かないかもしれない理由

今週目立つのは、地政学リスクが高まっても金が強く反応していない点だ。

中東情勢が緊迫しても、安全資産需要だけでは、利回り上昇とドル高による下押しを打ち消せていない。

また、9月のFRB判断は雇用よりインフレを重視する、という見方もある。インフレ率が目標を上回り、当局が物価安定(インフレを抑えること)を優先するなら、雇用が弱くても観測が大きくは変わらない可能性がある。

FRBのバー理事はインフレが鈍化しなければ利上げを支持する考えを示した。インフレリスク重視が続くなら、金曜後に金が上昇しても勢いが落ちやすい。

テクニカル面(チャートに基づく分析)では4,215ドル近辺が意識されている。ワールド・ゴールド・カウンシルは、短期の売り圧力が続く場合の調整目安としてこの水準に言及した。予想ではなく、あくまで参照水準とされる。

金市場が次に注目する点

8月雇用統計が弱ければ、金に短期的な戻り余地が生まれる。強ければ調整が深まる可能性がある。ただし、方向性を左右しやすいのは、米国債利回りとドルが下向きに転じるかどうかだ。

市場の動き金への示唆
利回り・ドルが強いまま金が上昇ポジション調整による短期反発の可能性
利回り・ドルが低下しつつ金が上昇金利見通しの変化を伴う、より強い回復
利回り上昇・ドル高とともに金が下落金融政策見通しによる圧力が継続

雇用統計の次は、インフレ指標と9月16日のFOMC(米連邦公開市場委員会:金融政策を決める会合)が焦点となる。足元の金への圧力が一時的か、それとも環境変化の一部かがそこで見えてくる。

Following Gold markets

金は単独で動かない。金に加え、米ドルと米国債利回りを併せて見ると、値動きの背景を理解しやすい。経済カレンダーでは、雇用統計、インフレ指標、9月16日のFOMCなど主要イベントの発表予定時刻を確認できる。

VT Marketsでは、金CFD(差金決済取引:現物を受け渡さず価格差だけを決済する取引)、通貨ペア(外国為替の組み合わせ)、債券CFDを同一プラットフォームで取引でき、関連市場を見比べやすい。金取引は24時間提供としている。

Trader’s Takeaway


地政学リスクが高まっているのに、なぜ金は下落したのか?

金は不確実性が高い局面で安全資産として買われやすい。ただ今回は、米国債利回りの上昇、ドル高、FRBがより引き締め的になるとの見方が金の重しになった。

米雇用統計は金価格にどう影響するのか?

雇用が弱いと利上げ観測が後退し、利回り低下を通じて金を支えやすい。雇用が強いと利上げ観測が強まり、逆に金には重しになりやすい。

なぜ米国債利回りの上昇は金に逆風なのか?

金は利息が付かない。国債利回りが上がると、利息が得られる資産の魅力が増し、金保有の機会費用が大きくなる。

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