
先月も触れたとおり、7〜8月は市場参加者(トレーダー)が休暇を取りやすく、金融市場は通常、取引量が減ります。それでも、地政学リスク(国際情勢の緊張)、中央銀行の金融政策の違い、重要な法案対応が重なり、投資家は警戒を強めています。
今月はジャクソンホール会議(米カンザスシティ連銀が主催する年次の経済シンポジウム)で、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、労働市場の減速を認めつつ、インフレ抑制への姿勢を改めて示しました。9月利下げ(政策金利の引き下げ)を明言しなかったものの、市場は発言をハト派(景気を重視し、金融緩和に前向き)寄りと受け止め、年内の利下げ期待が高まりました。これが株高と短期的な米ドル安につながりました。これは、欧州中央銀行(ECB)のタカ派(インフレを重視し、金融引き締めに前向き)姿勢や、日本銀行(BoJ)の慎重な正常化(緩和策を段階的に縮小する動き)と対照的で、主要中央銀行の金融政策の方向性の差が一段と意識されています。
米国株は、AI(人工知能)関連の期待と4〜6月期(Q2)決算の強さを背景に、最高値を更新しています。一方で、特に巨大IT企業(メガキャップ)の株価水準は割高感が強く、ドットコムバブル(2000年前後のIT株の過熱と崩壊)になぞらえる見方も出ています。
暗号資産(仮想通貨)では、8月15日のリップルと米証券取引委員会(SEC)の裁判手続きが材料となりました。双方が控訴(判決への不服申し立て)を取り下げ、XRPが状況によっては「証券」(株式のように規制対象となる金融商品)に当たるかどうかを巡る約5年の争いが事実上終結しました。これにより、機関投資家による採用(利用・投資の広がり)が進みやすくなり、規制面の見通しも改善しました。
地政学面では、トランプ氏の通商政策が世界経済の構図を変え続けています。新たな貿易合意がいくつか動き、特に日本との合意と、EU(欧州連合)との大型合意が注目されました。EUは約1.3兆ドル超の投資・購入を約束し、より厳しい30%関税(輸入品にかかる税)を回避する代わりに、15%の関税と米市場へのアクセス拡大を受け入れました。
Forex:
8月の外国為替(FX)市場は重要な局面でした。米国の政策金利がピーク(上限)に近いとの見方が広がる一方、地政学リスクで値動き(ボラティリティ=価格変動の大きさ)が高まりやすくなりました。ドル円(USDJPY)は、キャリートレード(低金利通貨で資金を借り、高金利通貨で運用して金利差を狙う取引)の巻き戻しが進む中、注目の通貨ペアです。
米ドルは、パウエル議長のジャクソンホールでの発言後に下落しました。利下げ期待が強まるにつれ、DXY(米ドル指数=主要通貨に対する米ドルの総合的な強さを示す指数)は高値から低下し、主要通貨に対して米ドルが売られました。
特にドル円は直近高値から急落しました。地政学リスクの高まりと金利見通しの変化で、円キャリートレードの解消(巻き戻し)が進み、高金利通貨の買い持ち(高利回り資産への投資)から資金が移りました。日銀の姿勢がわずかに修正されたことも円高要因となり、短期筋(短期売買を行う投機筋)の想定を外す展開となりました。
ユーロと英ポンドは米ドル安を背景に小幅高となりましたが、景気の方向性の違いと中央銀行の慎重な見通しが上値を抑えました。新興国通貨も、米国債利回り(米国債の利回り=金利の指標)が低下したことで資金調達の負担が和らぎ、下支えされました。

図1:4時間足のドル円チャート。ジャクソンホール会議後に高値から急反落した様子
Gold:
8月の金(ゴールド)は短期的に値動きが荒い場面があったものの、全体としてはレンジ相場(一定の価格帯で上下を繰り返す動き)が続いています。
月初は、米雇用指標が弱く、安全資産(リスク回避時に買われやすい資産)としての需要が高まり上昇しました。関税を巡る懸念も追い風となりました。その後も、ジャクソンホールを受けて9月利下げ期待が強まり、米ドル安と併せて金(現物に近い性格の資産=ブリオン)の押し上げ要因となりました。

図2:金の日足チャート。4月初旬以降のレンジ推移を示し、基調は上向き
Oil:
原油は8月に弱含みました。月半ばに価格は重要な65ドル水準を割り込みました。ロシアとウクライナの和平協議が進むとの期待から、供給不安が和らいだためです。一方、月末にかけては、ウクライナのドローン攻撃がロシアの製油所を標的にし、生産が一時的に乱れたことで、地政学リスクが再燃し価格がやや持ち直しました。
IEA(国際エネルギー機関)は、2025〜2026年の世界需要が堅調に伸びると見込みました。ただし、OPEC+(OPECにロシアなど主要産油国が加わった枠組み)からの供給増で在庫(貯蔵量)が積み上がる可能性も指摘しました。

図3:4時間足の原油チャート。65ドル近辺の重要水準を下抜けた場面
Indices
8月の米国株は、主要株価指数が再び最高値を更新しました。8月22日には、パウエル議長のハト派的なジャクソンホール発言を受けて株価が上昇し、ダウ工業株30種平均は約1.9%高、S&P500種は1.5%高、ナスダック総合指数は1.9%高となりました。
決算の強さが楽観を支えました。S&P500構成企業の9割超が市場予想を上回り、利益成長率は前年同期比で約11%となりました。金融とハイテクが、企業利益の伸びとAI関連テーマを背景に相場を主導しました。

図4:S&P500の日足チャート。堅調な決算とジャクソンホール発言を背景に上昇が継続
Crypto:
8月の暗号資産市場では重要な材料がありました。8月15日にSECとリップルが控訴を取り下げ、リップルが1億2,500万ドルの罰金で和解していた点が確認されました。この決着で不透明感が後退し、XRPの投資対象としての見通しが改善、規制環境も分かりやすくなりました。
また、Web3(ブロックチェーンを使い、特定企業に依存しない分散型のインターネットの考え方)への資金流入が増え、機関投資家の関心が分散型インフラ(中央管理者がいない仕組み)へ広がっていることを示しました。

図5:ビットコインの4時間足チャート。月前半に最高値を更新した後、反落した様子