
米国の製油会社(原油をガソリン・軽油などに精製する企業)は今年、エネルギー取引で最も目立つ存在となった。世界的な軽油(ディーゼル)不足で輸出ビジネスの収益性が急上昇し、過去最高水準の利幅を生む状態になった。だが、その利益を生んだ輸出の流れ自体が、いま政治の標的になっている。
「軽油を外に出さない方がいいと言ってきた」。ドナルド・トランプ大統領は火曜日、国連総会の合間に記者団にこう述べた。政権が輸出制限を検討しているとの報道を受けた発言だが、その後、当局者は全面禁止ではなく、対象を絞った措置になる可能性を示した。
これらの報道を受け、製油株は下落した。Barron’sによれば、トランプ氏の発言後、バレロは4%安、マラソン・ペトロリアムは3%安となった。水曜日はマラソンがさらに1.5%安、バレロが1.9%安。一方で、米国の超低硫黄ディーゼル先物(硫黄分を大幅に減らした軽油の先物)は6.3%超下落し、欧州のディーゼル先物は最大7%上昇した。この分岐は、市場が「痛みは米国内(価格下落)」「利益は海外(価格上昇)」と見ていることを示す。
ここで残る論点はひとつだ。世界的な不足が生んだ収益は、政治が介入しても続くのか。
米国製油会社を不可欠にした軽油不足
軽油は輸送、農業、工業を動かす燃料で、不足すると経済全体にすぐ影響が出る。
今年は多くの地域で供給が足りなかった。イラン戦争による供給混乱や、ロシアの軽油輸出制限で世界の需給が引き締まり、米国の製油会社は数少ない「輸出余力(国内需要を満たした後に海外へ回せる供給)」を持つ存在になった。
結果として、米国の製油会社が世界の需給を支える形になった。米国は軽油の最大輸出国で、輸出量は日量約150万バレル。これは米国の製油所が生産する軽油の4分の1超に相当する。ロイターによれば、直近のある週には日量161万バレルに達した。昨年平均(125万バレル)から増えている。Barron’sは、米国の製油所はすでに「稼働率(設備をどれだけ動かしているか)」がほぼ上限に近いと指摘する。増産余地は小さい。
国内では価格上昇が深刻だ。9月21日には、全米平均が1ガロン6.53ドルと過去最高となり、1月の約3.50ドルから大きく上がった。企業業績にも影響が出始めている。輸送大手J.B.ハントは、軽油高などのコスト上昇で第3四半期利益が第2四半期比で5~10%減ると警告し、株価は1日で13%下落した。11月の中間選挙を前に、アイオワ州とミシガン州の共和党上院候補が輸出一時停止を支持しており、政治圧力は強い。
250億ドルの「追い風」が政治の標的に
S&Pグローバル・エナジーは、米国製油会社が直近90日だけで軽油輸出から約250億ドルを稼いだと推計する。これは強気派の根拠であると同時に、政治が狙う数字でもある。
市場もこの取引を評価してきた。利幅(マージン)が拡大し、利益が伸びたことで、大手製油会社の株価は追い風を受けた。
製油会社が「追い風は続く」と主張する理由
強気派の前提は単純だ。政策で不足を埋めるのは難しい、という見方である。
不足は短期の話ではない。米国の軽油在庫は、ロイターによれば1982年の統計開始以来、季節要因を踏まえた水準で最も低い。EIA(米エネルギー情報局)は在庫が過去5年平均を下回った状態が続くと見ている。季節性も強い。ガソリンと違い、軽油需要は寒い時期に伸びやすい(収穫期の農機需要と暖房需要が重なる)。
利益は「期待」ではなく実績だ。 フィリップス66の直近決算は、軽油の利幅が異例に大きいこと、稼働率が高いことが利益につながっている状況を示している。
政策は見出しほど厳しくならない可能性がある。クリス・ライト・エネルギー長官の発言は、全面停止ではなく、対象を絞った制限を示唆している。実務上の抜け道もある。製油会社は「留出油(原油を加熱して得られる中間製品。軽油や灯油などの原料)」のブレンド(混合品)として一部未完成の製品を輸出し、海外で仕上げることができる。また、暖房用の油(ヒーティングオイル)は化学的に軽油とほぼ同じだ。強気派にとって、輸出量をほとんど減らさない部分的な規制なら、今週の下げは買い場になり得る。
輸出を止めれば、軽油の需給地図が変わる
軽油価格は世界で連動しやすい。米国の供給が市場から消えれば、世界価格は下がるより上がる可能性が高い。
ただし影響は一様ではない。
| 対象 | 輸出禁止の場合の方向性(想定) | 理由 |
| 低硫黄ガスオイル(GASOIL-C.、欧州の軽油指標先物の一種) | 上昇 | 米国供給を失う。需給はすでに過去に例がないほどきつい |
| MPC、VLO、PSX(米国の主要製油株) | 下落(少なくとも当初) | 米湾岸(ガルフコースト)産の軽油が世界価格より安くなり、利幅が縮む |
| ブレント原油(UKOUSD-STD, UKOUSDft-S:北海ブレントの取引指標) | まちまち〜やや上昇 | 供給不安は追い風。ただし製油所の稼働が落ちると原油需要が減る |
| WTI原油(USOUSD-STD, CL-OIL-STD:米国WTIの取引指標) | まちまち〜弱含み | 製油所の稼働が下がると、国内原油が余りやすい |
原油への影響は二次的だ。11月限のブレントは水曜日に1バレル100ドル近辺、WTIは90ドル前後だった。ボトルネック(制約)は原油の不足ではなく、精製能力(製油所で作れる量)だ。政策ニュースが出れば、原油より製品(軽油など)が大きく動きやすい。
製油株上昇が最も崩れやすい点
最大の直撃は利幅だ。輸出禁止なら、米国内の軽油価格は世界より低くなり、「原油コストと燃料価格の差(精製マージン)」が縮む。輸出が止まれば米湾岸のタンク在庫が積み上がり、製油会社は原油処理を減らさざるを得ない。するとガソリンやジェット燃料の供給も減る。地元のガソリン供給が細いカリフォルニアなどでは、結果として店頭価格(ガソリンスタンドの表示価格)が上がる恐れがある。マラソンは、米湾岸の輸出の多くが軽油とジェット燃料であるため、影響が大きい。
もう一つの脅威は需要で、すでに見え始めている。EIAの週次データでは、米国の軽油消費は前年より3%減、2年前比では8%減となっている。J.B.ハントの警告が示す通り、燃料高は荷動き(貨物輸送の量)を冷やしやすい。アナリストも動いた。ジェフリーズは今週、バレロとマラソンを「買い」から「ホールド(中立)」に引き下げ、マラソンの目標株価を413ドルとした。
製油取引の次局面を決めるもの
不足はなお製油会社に有利だ。焦点は、ワシントンがその利益をどこまで認めるかにある。判断材料は4つだ。
- 最終的な政策判断。全面禁止、部分的な制限、見送りでは、製油会社と燃料市場の結果が大きく変わる。
- ジョーンズ法の適用除外(免除)。ジョーンズ法は「米国内の海上輸送は米国籍の船などに限定する」という規制で、国内の燃料融通を難しくしやすい。免除が延長されれば、輸出を止めずに国内供給の詰まりを和らげる余地がある。
- EIAの週次データ。軽油在庫と需要の流れで、不足が強まっているのか、弱まっているのかが分かる。
- 米国と欧州の軽油価格差(スプレッド)。スプレッドは「2つの価格の差」。米欧の差が広がれば、輸出が絞られる事態を市場が織り込み始めたサインになり得る。
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