
先週、ワシントンとオタワの貿易摩擦が急速に激化した。8月21日(金)に交渉が決裂し、米国はカナダ産品の一部に最大50%の関税(輸入品に上乗せする税金)を導入。カナダも9月8日から同等の措置で対抗すると確認した。
ただ、市場の反応は見出しほど大きくなかった。
カナダドルは米ドルに対し1.376前後から1.38へ小幅に下落し、下落率は約0.3%にとどまった。為替トレーダーの見方では、「関税率の大きさ」そのものは、直ちに価格の大変動につながっていない。
政治面の緊張は即座に表面化した一方、経済への影響は出方が遅く、現時点では限定的だ。為替市場が重視しているのは、最終的に経済にどれだけ効くかである。
個別の値動き分析は、当社のDaily Market Analysisで確認できる。
市場は「関税の見出し」だけを見ていない
為替への影響を測るには、どの程度の貿易が対象になるかを見る。
今回の米国の措置は約276億米ドル相当のカナダ製品を対象とし、カナダの対米輸出年額の約5%に当たる。対象には家具、合板、プラスチック、電気機器、ワイン、セメント、衣料品、カメラ、ホッケースティックなどが含まれる。
カナダは9月8日から15%、25%、50%の関税を、同程度の規模の米国からの輸入品に課す。対象は鉄鋼、乳製品、家電、農業機械、パルプ・紙(製紙向け原料と紙製品)、電子機器など。オタワは影響を受ける企業向けに75億カナダドルの支援策も発表した。
関税の対象となる企業にとって影響は大きい可能性がある。コスト増は利幅(利益率)を圧迫し、供給網(サプライチェーン:部材調達から生産・物流までの流れ)を乱し、需要を弱め得る。
関税が為替を直接動かしにくい理由
ただ、国全体で見ると影響は抑えられる。カナダと米国の貿易の多くは、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定:北米の自由貿易協定)の枠組みで続いており、多くの商品は引き続き無関税で流通している。
為替市場が織り込むのは特定産業ではなく、経済全体の強さだ。家具や建材への関税は当該業界には重要でも、通貨の大幅な見直しに直結するとは限らない。
波及の流れは概ね次の通り。

通貨は「金利差の見通し」に強く左右される。投資家が、ある国の金利がより高く(あるいは高くなりやすく)投資収益が見込めると考えると、その通貨の需要が増えやすい。
カナダにとって、今回の関税対立は政策判断を難しくした。
激化前からカナダ銀行(中央銀行)はインフレのリスクと景気の勢いの弱さの間で舵取りを迫られていた。エネルギー価格の上昇は物価を押し上げる一方、貿易環境の悪化は金利を慎重に運営すべき理由になり得る。
その結果、関税は「金利見通しを通じて」カナダドルに影響した。ただし、想定される景気への打撃が限定的なため、金利見通しの変化も小さく、為替の反応も小幅にとどまった。
これが、通貨は動いたものの、わずかだった理由である。
より大きなリスクは先にある
市場がより注視しているのは、すでに導入された関税よりも、今後の追加措置の可能性だ。
米国は、カナダの自動車、自動車部品、鉄鋼への関税が2027年1月から50%へ引き上げられる可能性を示している。これらはカナダの輸出の中核であり、北米の結びついた供給網に依存するため、経済への重みが大きい。
自動車と鉄鋼に踏み込む広範な措置は、現行の措置よりはるかに大きな経済ショックになり得る。
現時点で市場は、関税が発動する前に交渉で妥結すると見ているようだ。供給網の混乱が長期化して得をする当事者が少ない、という見方が背景にある。
ただしリスクもある。市場が、まだ実現していない「妥結」を前提にポジション(取引の持ち高)を作っている可能性があるためだ。
交渉が続き、1月の措置が回避されるなら、現行の関税は特定分野の問題にとどまる。一方、より広範な関税が現実になれば、為替の反応は大きくなり得る。
USD/CAD(米ドル/カナダドル)を動かし得る3要因
カナダドルの先行きを左右しやすいのは次の3点だ。
- カナダ銀行の政策見通し:貿易リスクが為替に伝わる主要ルート。関税の影響は最終的に成長率の見通しと金利の予想に反映される。将来の金利予想が変われば、関税の見出し以上にカナダドルを動かし得る。
- 自動車・鉄鋼を巡る交渉:これらが狙い撃ちされれば、経済への影響は大きくなる。
- 原油価格:エネルギー輸出はカナダドルの重要要因。カナダは米国向け原油の最大の輸出国で、カナダドルは原油相場の動きに反応しやすい傾向がある。日によっては貿易交渉より原油要因の方がカナダドルに効く。
市場は「損害」より「回避」を織り込む
関税の引き上げは重大だが、現時点の対象は対米貿易全体の一部に限られるため、為替の反応は小さい。
市場が織り込んでいるのは関税の存在ではなく、より広範な措置が回避される確率である。
現状、トレーダーは交渉が進み、より打撃の大きい産業へ火が広がらないと見ている。この見通しが最大の注目点だ。
要点(TL;DR)
なぜ米国が50%関税を課してもカナダドルはほとんど動かなかったのか?
下落は約0.3%にとどまった。市場は関税率の大きさより、経済全体への影響を重視したためだ。
新たな関税はカナダの貿易のどの程度に影響するのか?
対象は約276億米ドルで、対米輸出年額の約5%。カナダ・米国間の貿易の大半は影響を受けていない。
関税はUSD/CADにどう影響するのか?
主に成長見通しと金利予想を通じて影響する。景気見通しが悪化すれば、カナダ銀行の政策見通しが変わり、カナダドルに波及し得る。
カナダドルが大きく動く要因は?
自動車・自動車部品・鉄鋼に対するより広範な関税は、経済への影響が大きく、市場の反応も強くなり得る。
次にトレーダーが注目すべき点は?
カナダ銀行の金利予想、米加の貿易交渉、原油価格。いずれもカナダドルを動かしやすい。
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